東京高等裁判所 平成8年(行ケ)160号 判決 1998年10月01日
アメリカ合衆国
06880 コネチカット ウエストポートリバーサイド アヴェニュー 285
原告
ビーダブリュティー パートナーズ、エル.ピー
代表者
ステファン ティー.ロゼッター
訴訟代理人弁理士
新部興治
同
岸田正行
同
小花弘路
同
本多小平
同
古賀洋之助
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 伊佐山建志
指定代理人
藤井俊二
同
吉田秀推
同
吉村宅衛
同
小池隆
主文
特許庁が平成7年審判第2081号事件について
平成8年3月14日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
主文と同旨の判決
2 被告
「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続等
ピュア ウォーター テクノロジーズ インコーポレーテッド(住所 原告と同じ)は、名称を「流体浄化システム」とする発明について、1986年5月9日にアメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、1987年4月21日国際出願(PCT/US87/00929)による特許出願(特願昭62-503001号)をし、同年(昭和62年)12月25日特許法184条の5第1項の規定による書面を特許庁長官に提出した。
エレクトロラックス ウォーター システムズ インコーポレーテッド(住所 アメリカ合衆国 30067 ジョージア マリエッタ スィート 900 サウス ウィンディ リッジ パークウェイ 2300)は、1989年10月18日、ピュア ウォーター テクノロジーズ インコーポレーテッドより本願発明につき特許を受ける権利を譲り受け、平成2年4月25日その旨を特許庁長官に届け出たが、平成6年10月12日拒絶査定を受けたので、平成7年2月6日拒絶査定不服の審判を請求し、平成7年審判第2081号事件として審理された結果、平成8年3月14日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年5月13日エレクトロラックス ウォーター システムズ インコーポレーテッドに送達された。なお、出訴期間として90日が附加された。
原告は、1994年4月4日、エレクトロラックス ウォーターシステムズ インコーポレーテッドより本願発明につき特許を受ける権利を譲り受け、平成8年7月16日特許庁長官にその旨を届け出た。
2 本願の特許請求の範囲第1項記載の発明(以下「本願発明」という。)の要旨
紫外線放射管(26)、精製された流体を使用者に提供するための出口取付具(39)、濾過すべき流体を受け入れるための入口取付具(37)及び濾過された流体を通過させるための出口取付具(38)を有する濾過手段(22)、及び該紫外線放射管(26)に隣接した流体流量制御導管手段(27)を備え、該流体流量制御導管手段(27)は第1及び第2の流路(33、34)より成り、これにそれぞれ流体を通過させるとともに、これを通る流体に紫外線放射管(26)からの紫外線を放射し、その第1流路(33)の出口を濾過手段(22)の入口取付具(37)と連通させるとともに、第2流路(34)を該濾過手段の出口取付具(38)と連通させることより成るシステムにおいて、
該紫外線放射管(26)は1本の細長い放射管体より成るものとし、上記の第1及び第2の流路はこの1本の細長い放射管体(26)の表面の近くにあってこれにラセン状に巻きつけられている曲がりくねったものであり、従って両流路は本質的に前記の1本の細長い紫外線放射管体(26)の全長の周囲をかこむものであり、さらに該第2流路(34)の出口は前記の出口取付具(39)と直接連結されていることを特徴とする流体浄化システム。(別紙図面1参照)
3 審決の理由の要点
(1) 本願発明の要旨は前項記載のとおりである。
(2) 第1引用例
米国特許第3、550、782号明細書(以下「第1引用例」という。)には、下記に掲げる技術内容が記載されている。なお、引用例の構成要素のうち、本願発明の構成要素と一致するものについては、本願発明において用いられた用語を使用し、引用例においてそれと異なる用語が用いられている場合は引用例において用いられたその用語を各構成要素(同一構成要素に関しては、最初の記述のもののみ)のあとに括弧書きで示した。また、引用例において図面符号が付されているものについては、その図面符号を各構成要素のあとの括弧内で示した。
紫外線灯(46)、精製された流体を使用者に提供するための出口取付具(出口ニップル34)、逆浸透濾過すべき流体を受け入れるための入口取付具(入口管ニップル12)及び逆浸透濾過された流体を通過させるための出口取付具(出口管ニップル14)を有する逆浸透濾過ユニット(10)、及び該紫外線灯(46)に隣接した流体導管手段を備え、該流体導管手段は第1及び第2の流路(石英管64、66)より成り、これにそれぞれ流体を通過させるとともに、これを通る流体に紫外線灯(46)からの紫外線を放射し、その第1流路(64)の出口を逆浸透濾過ユニット(10)の入口取付具(12)と連通させるとともに、第2流路(66)を該ユニット(10)の出口取付具(14)と連通させることより成るシステムにおいて、
上記第1及び第2の流路(64、66)は前記放射灯(46)の近くにあり、さらに該第2流路(66)の出口は前記の出口取付具(34)と直接連結されている流体浄化システム。(別紙図面2参照)
(3) 本願発明と第1引用例のものとの比較
両者は、次の2点で相違し、他に実質的な相違点はない。
<1> 本願発明の流体浄化手段は流体の濾過であるのに対し、第1引用例のものの流体浄化手段は流体の逆浸透濾過である。
<2> 本願発明の流体浄化手段による流体浄化処理(濾過)の前段及び後段で行う滅菌手段として、浄化すべき流体を上記流体浄化手段へ導く第1の流路33及び浄化された流体を上記流体浄化手段から排出させる第2の流路34が、1本の細長い放射管体よりなる紫外線放射管26の表面の近くにあってこれにラセン状に巻きつけられている曲がりくねったものであり、したがって、両流路は本質的に前記紫外線放射管26の全長の周囲をかこむとともに流体流量の制御導管としての機能も有しているのに対し、第1引用例のものは、紫外線放射体が複数の電球状のものであり、流体が流路を通過する際に紫外線を照射されるところの該流路(64、66)はそれぞれ一本の直管である。
(4) 相違点に対する判断
<1> 相違点<1>について
飲料水等の流体の浄化手段として、(例えば、活性炭フィルタを有する)濾過手段は、本願の出願前に周知であり、しかも、本願発明において、濾過手段と紫外線照射手段を組み合わせたことによる効果(例えば、濾過手段がバクテリアに汚染されない。)も、第1引用例の逆浸透濾過ユニット(10)と紫外線照射手段を組み合わせたことによる効果(逆浸透濾過ユニット10がバクテリアに汚染されない。)から、当業者が容易に予測できることと認める。
<2> 相違点<2>について
特開昭49-9854号公報(以下「第2引用例」という。)には、液体が流路を通過する際に紫外線を照射されるところの該流路(導水管2)が、1本の細長い放射管体よりなる紫外線放射管(紫外線殺菌灯1)の表面の近くにあってこれにラセン状に巻きつけられている曲がりくねったものであり、したがって、該流路は本質的に前記紫外線放射管(1)の全長の周囲をかこむとともに流体流量の制御導管としての機能も有していると認められる技術が記載されており、また、米国特許第3、519、817号明細書(以下「第3引用例」という。)には、液体が導管を通過する際に放射線を照射されるところの該導管が、放射線源(1)の周囲にラセン状に置かれた2つの流路(スパイラル管2)で形成され、液体は、その流路の一方に導入されてその流路を一方向に進み、次に他方の流路を逆向きに進んで排出される放射線照射装置が記載されており、しかも、本願発明と第1引用例のものとの相違点<2>における本願発明の構成による作用効果は、第2引用例及び第3引用例にそれぞれ記載された前記2つの技術の持つ各作用効果の和にすぎないと認められるから、相違点<2>における本願発明の構成は第2引用例及び第3引用例に記載された前記2つの技術に基づき当業者が容易になし得る構成の変更である。
<3> そして、本願発明全体としても、前記3つの引用例のものの各作用効果と前記周知技術の作用効果を合わせた以上の格別の効果を奏するものとは認められない。
(5) むすび
したがって、本願発明は、第1引用例ないし第3引用例に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
4 審決を取り消すべき事由
審決の理由の要点(1)は認める。同(2)のうち、「精製された流体を使用者に提供するための出口取付具(出口ニップル34)」及び「逆浸透濾過ユニット(10)」が第1引用例に記載されているとの点は争い、その余は認める。同(3)のうち、相違点の認定は認めるが、「他に実質的な相違点はない。」との認定は争う。同(4)、(5)は争う。
審決は、本願発明と第1引用例のものとの相違点を看過し、かつ、相違点についての判断を誤って、本願発明の進歩性の判断を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
(1) 相違点の看過(取消事由1)
<1> 第1引用例のものは、その特許請求の範囲第1項の記載、及び第1引用例において使用している逆浸透圧ユニット10は圧力をかけなければ作動せず、所要の水処理量に応じて逆浸透膜にかける圧力をコントロールする必要があり、また、水処理能力が小さいので、貯水タンクがなければ所要量の処理水を連続的に使用に提供できないものであることから明らかなように、第2導管からの脱塩殺菌された水を貯蔵するための貯水タンクを使用することを必須要件とするものである。
<2> これに対し、本願発明は、本願明細書(甲第8号証)の2頁3行ないし3頁25行に記載されているとおり、第1引用例のものの欠点を解決することを目的とするものであり、特に、第1引用例で必須の構成要件とされている貯水タンクを省略するために種々の実験を行い、濾過手段(22)、紫外線放射管(24)及び同放射管に隣接して設けた流体流量制御導管手段(27)を本願の特許請求の範囲第1項に記載の構成で組み合わせたものである。この組合せ構成によってはじめて、本願発明の目的、特に第1引用例の必須要件である貯水タンクを省略して、タンク内のバクテリア発生の可能性を排除し、しかも家庭用にも用いられる小型の浄水システムを提供することが可能になったものである。
本願発明は単に第1引用例の貯水タンクを取り除けば達成できるというものでなく、貯水タンクを取り除いてバクテリアの発生源を取り除くとともに、この貯水タンクを取り除いたために生じた技術課題を解決したものである。
<3> 上記のとおり、本願発明と第1引用例のものにおける貯水タンクの有無という相違は、構成上の重要な相違点であるのみならず、本願発明の特許性の判断を左右する技術思想上の重要な相違点でもある。
しかるに、審決は、審決認定の相違点以外には「他に実質的な相違点はない。」と認定し、上記相違点を看過したものであって、この相違点の看過が審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
なお、上記のとおり、第1引用例のものにおいては、貯水タンク18を備えることを必須要件とするものであり、第1引用例の「出口取付具(出口ニップル34)」は精製された流体をタンク18に送るための「タンク18へのニップル16に液路を連結するための出口ニップル34」(甲第5号証2欄9行、10行)であり、審決が認定するような「精製された流体を使用者に提供するための出口取付具」ではない。また、審決は、第1引用例の「膜式脱塩ユニット」(実施例では「逆浸透ユニット圧10」)を「逆浸透濾過ユニット」というように置き換えているが、本願発明の「濾過手段」と混同を生ぜしめるものである。
(2) 相違点<1>についての判断の誤り(取消事由2)
<1> 飲料水等の流体の浄化手段として、(例えば、活性炭フィルタを有する)濾過手段が、本願の出願前に周知であったことは認める。
<2> しかしながら、本願発明の重要な効果もしくは技術課題は、第1引用例で用いている貯水タンクを廃止してタンク内で発生するバクテリアによる汚染を防止するために、濾過手段(22)と紫外線放射管(26)と、流体流量制御導管手段(27)を組合せたものであり、この組合せにより貯水タンクの除去がはじめて技術的に可能になったものである。
審決は、第1引用例における逆浸透ユニット圧10と本願発明の濾過手段(22)とを均等なものとして判断しているが、逆浸透ユニットは、圧力をかけなければ作動せず、また、所要の水処理量に応じて逆浸透膜にかける圧力をコントロールする必要があり、本願発明の濾過手段とは明らかに区別されるべきものである。さらに、逆浸透圧ユニットは水処理能力が小さいので、貯水タンクがなければ処理水を連続的に使用者に直接提供することはできない。第1引用例においては逆浸透圧ユニット10と紫外線灯46と、同紫外線灯に隣接した流体導管手段を組合せ、さらにタンク18を必須の構成として設けなければ、第1引用例の発明は実施不可能なものである。
<3> したがって、審決が、本願発明の濾過手段と紫外線照射手段を組合せたことによる効果は、第1引用例の逆浸透濾過ユニット(10)と紫外線照射手段を組合せたことによる効果から当業者が容易に予測できるとした判断は、本願発明の技術課題及び技術手段を全く無視したものであって、誤りである。
(3) 相違点<2>についての判断の誤り(取消事由3)
<1> 審決は、「第2引用例には、液体が流路を通過する際に紫外線を照射されるところの該流路(導水管2)が、1本の細長い放射管体よりなる紫外線放射管(紫外線殺菌灯1)の表面の近くにあってこれにラセン状に巻きつけられている曲がりくねったものであり、従って該流路は本質的に前記紫外線放射管(1)の全長の周囲をかこむとともに流体流量の制御導管としての機能も有していると認められる技術が記載されており、」と認定している。
しかしながら、第2引用例(甲第6号証)は、「紫外線殺菌灯の周囲を紫外線透過率の高い中空透明部材でスパイラル状に巻き、該スパイラル状に巻いた部材の中空内部に液体を通過させて液体を殺菌するようにした液体の殺菌装置。」(特許請求の範囲)に関するもので、本願発明との関連でいえば、紫外線殺菌灯の殺菌効果を高めるために、紫外線殺菌灯の周囲を一方向にのみ流体を流す紫外線透過率の高い中空透明部材でスパイラル状に巻いた構成を開示しているのみで、第1引用例におけるようなタンク内のバクテリア発生による汚染問題について全く問題意識がなく、第1引用例と組合せてみたところで、第1引用例の逆浸透ユニット、紫外線灯、同紫外線灯に隣接した流体導管及びタンクを必須要件とする構成のうち、同紫外線灯の周囲を一体の中空透明部材でスパイラル状に巻いた構成が得られるのみで、膜式脱塩ユニット及び貯水タンクは依然として必須要件として残り、これを省略できるという示唆、あるいはこれを省略しなければならないとの問題意識は全く得られない。
<2> また、第3引用例(甲第7号証)は化学プロセスにおける粘性の高い液体を放射線で処理する技術に関するもので、特に粘性が比較的高く、かつ場合によってはペースト状での処理を要する流体の化学処理、例えば粒子を重合化するための放射線照射装置に関するもので、照射装置を通過するすべての流体粒子が均一な滞留時間をもち、それによってすべての流体粒子が均一に照射するようにしたもので、飲料水の浄化処理に関するものではない。
したがって、第3引用例に審決認定の事項が記載されているとしても、技術分野の異なる第3引用例を第1引用例に組合せること自体が技術的に不合理であり、また組合せてみても、本願発明の構成、目的、効果を示唆するところは全くない。
<3> したがって、審決の相違点<2>についての判断は誤りであり、「本願発明全体としても、前記3つの引用例のものの各作用効果と前記周知技術の作用効果を合わせた以上の格別の効果を奏するものとは認められない。」とした判断も誤りである。
第3 請求の原因に対する認否及び反論
1 請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。
2 反論
(1) 取消事由1について
<1> 本願発明について
(a) 本願発明の要旨は特許請求の範囲第1項に記載されたとおりのものであり、「出口取付具(39)」について、特許請求の範囲第1項には、「精製された流体を使用者に提供するための出口取付具(39)」と記載されているのみで、出口取付具(39)から流出する精製された流体がどのように使用者に提供されるかについでは限定されていない。
したがって、「精製された流体を使用者に提供するための出口取付具(39)」は、精製された流体がタンク等を介さないで直接使用者に提供するための出口取付具の意味に限定されるものではない。
(b) また、「濾過手段(22)」については、本願の特許請求の範囲第1項には、「濾過すべき流体を受け入れるための入口取付具(37)及び濾過された流体を通過させるための出口取付具(38)を有する濾過手段(22)」と記載されているのみで、「濾過手段(22)」は、特定の構成のものに限定されているわけではない。すなわち、濾過手段(22)をさらに活性炭フィルター等からなるものに特定しているものではない。
上記のとおり、本願発明の「濾過手段(22)」は活性炭フィルター等の処理能力の大きい特定のものに限定されているわけではないから、第1引用例の「逆浸透圧ユニット10」はタンクが必要であるのに、本願発明の「濾過手段(22)」はタンクを必要としないということにはならない。
(c) 本願の特許請求の範囲第1項には、「・・・特徴とする流体浄化システム」と記載されており、本願発明は「流体浄化システム」に関するものであって、「家庭用飲料水供給装置」に関するものではない。
(d) そして、上記(a)(b)(c)のとおり解することは、本願明細書(甲第8号証)の5頁10行ないし6頁26行に記載された本願発明の効果と矛盾するものではない。
<2> 第1引用例について
第1引用例の特許請求の範囲に記載された発明は、水に含まれるバクテリアを殺すとともに、精製された水の味をよくすることを目的としているので、水にオゾンを添加するためのタンク18を必須の構成要件としている。
しかし、第1引用例の記載を技術情報としてみると、第1引用例には、逆浸透圧ユニット10によって水から不純物を除去し、紫外線灯46で殺菌することによって水を精製する技術と、タンク18内で水にオゾンを添加して味をよくする技術等が記載されている。すなわち、第1引用例の水処理装置では、タンク18は水の精製には何の作用もしておらず、タンクがないからといって水が精製できないわけではない。
したがって、水の精製、すなわち、流体浄化システムとして第1引用例記載の技術事項をみると、タンク18が必須の構成要件であるとはいえない。
上記のとおり、第1引用例のものにおいては、水を精製するのにタンク18を必要としていないから、第1引用例から、水を精製する技術を摘出する際に、これとは別個の技術である、味をよくする技術に係わるタンク18をも併せて摘出する必要はなく、また、ニップル34から流出した水は使用者に提供されているから、第1引用例には、「精製された流体を使用者に提供するための出口取付具(出口ニップル34)」が記載されているということができる。
<3> したがって、本願発明と第1引用例記載の発明との対比において、タンクは何の係わりもないから、タンクの有無についての相違点はなく、審決に原告主張の相違点の看過はない。
(2) 取消事由2について
第1引用例には、審決で摘示した発明が記載されており、本願発明と第1引用例記載の発明とは、タンクの有無についての相違点はない。
したがって、上記相違点があることを前提とする原告の主張は理由がない。
(3) 取消事由3について
第2引用例又は第3引用例には、紫外線を透過する部材を1本の細長い紫外線放射体の周囲にスパイラル状に巻き、スパイラル状に巻いた部材中を流れる流体に紫外線を均一に効率的に照射する構成が記載されており、第2引用例又は第3引用例記載の構成は、流体に紫外線を照射するという技術では第1引用例記載の技術と共通するものである。
そして、流体に紫外線を均一に効率よく照射するために、第1引用例記載の発明において、水に紫外線を照射する構成として、第2引用例又は第3引用例記載のものを適用することは当業者において容易に想到し得ることである。
理由
1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯等)、2(本願発明の要旨)及び3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。そして、第1引用例に、「精製された流体を使用者に提供するための出口取付具(出口ニップル34)」及び「逆浸透濾過ユニット(10)」を除く審決認定の事項が記載されていること、本願発明と第1引用例との間に審決認定の相違点があることについては、当事者間に争いがない。
2 取消事由1(相違点の看過)について
(1) 第1引用例(甲第5号証)には次の各記載があることが認められる。
<1> 〔特許請求の範囲〕欄
「1.流水からミネラルを除去する膜式脱塩ユニット、処理される水が該ユニットに流入し、且つ該流水への紫外線が透過するようにした壁を有する第1の導管、上記ユニットから流出される脱塩水が流入し、該脱塩水への紫外線が透過するようにした壁を有する第2の導管、上記両壁を透過して上記両導管内へと紫外線を放射し、上記脱塩ユニットの上流、下流両方向の水を殺菌する様配置構成された共通の紫外線源、上記導管と紫外線源とを収容するハウジング、該ハウジング内へ空気を上記紫外線放射にさらされる様な場所に引き込み該空気中にオゾンを形成するインレット手段、該インレット手段を通して上記ハウジング内へ入る空気から不純物を除去するフイルタ、上記第2導管からの脱塩殺菌水を受け入れる貯水タンク、上記タンク内水面上に殺菌空気の覆いを与える形に上記ハウジングからのオゾンと空気とを上記タンク内に与える第3導管、上記タンクの所定水位において上記タンクから一方向排出をなすチェックバルブユニット、及び上記タンクから水を取り出すためのバルブ制御第2アウトレットとを具備して成り、然して該第2アウトレットを通して上記タンクから水を取り出すとタンク内水位の低下により上記ハウジングと上記第3導管を通じて空気が引き込まれ、一方、水が過剰にタンク内に流入すると先ず水位を上昇し次いでこの過剰分を上記チェックバルブを通して放出する様に上記タンクと第3導管とがシールされていることを特徴とする水処理装置。」(甲第5号証訳文12頁10行ないし13頁14行。別紙図面2参照)
<2> 〔発明の背景〕欄中の〔従来の技術〕の項
「相当長期間にわたり所謂逆浸透圧装置と称する家庭用水精製器の開発がなされて来た。この種精製器は冷水蛇口とタンクとの間に接続され、これに入る水からミネラルとバクテリアとを除去する手段を含む。」(同2頁8行ないし11行)
「タンクから水が取り出された時には逆浸透圧装置からろ過された水が補充される。水の動きは全く遅く、例えば1秒当たり2滴程度である。」(同2頁16行ないし18行)
<3> 〔本発明の概要〕欄
「本発明は紫外線の単一光源で二本の水流を殺菌する手段を含み、本システムには逆浸透圧ユニットを用い、該ユニットに出入りする水の中のバクテリアを殺す。このような殺菌手段はオープンシステム或はクローズドシステムどちらでも設けられるが、タンク内に入る水には従来公知の如何なるシステムで(も)可能であった以上にバクテリアが存在しない。更に、本発明においては上記紫外線光源を利用してオゾンを作りオープンシステムのタンク内の精製した水にオゾンを添加する手段をも含む。」(同3頁末行ないし4頁8行)
<4> 〔好ましい実施例の説明〕欄
「同様に石英管66はニップル32と34との間に延び、逆浸透圧ユニットとタンク18との間で石英管66に通流する水が紫外線照射に曝され、管内のバクテリアが殺される。これについては、タンク18への濾過された水は非常にゆっくりとした滴流であることが注目される。水の動きが非常にゆっくりなので、水はすべて各石英管を流れる間に例えば数分間程度の相当な長時間紫外線を浴びることになる。」(同8頁11行ないし19行)
以上のとおり、第1引用例の特許請求の範囲第1項には、「第2導管からの脱塩殺菌水を受け入れる貯水タンク」が必須の構成として規定されているが、上記各記載によれば、第1引用例のものにおいては、濾過装置として用いられる膜式脱塩ユニット(逆浸透圧ユニット10)から「貯水タンク」に流れる濾過水の動きが非常にゆっくりとした滴流であり、この非常にゆっくりとした水の動きを紫外線照射に有利に利用しようとするものであることから、水処理装置として使用者のために実用的な水量を確保するためには、「貯水タンク」が必須のものとならざるを得ないことによるものと認められる。
(2) 一方、本願明細書(甲第8号証)には次の各記載があることが認められる。
<1> 〔本発明の背景〕欄中の〔先行技術の記載〕の項
「例えばヴェロツの米国特許第3550782号(注第1引用例)では、1対の並列導水管の間に一連の紫外線電球を配列した用水滅菌装置を開示している。この両導水管の間には1台の逆浸透装置が直列に連結されているので、両導水管の中を流れる水は逆浸透装置の上流と下流の両側で紫外線放射を受けることになる。ヴェロツの米国特許第3550782号によれば、生きているバクテリアから逆浸透装置の浸透膜を防護するには、この装置の上流側でバクテリアを破壊する方が良いと言う。濾過滅菌済みの水は大型タンクに貯えられ、そこから必要に応じて給水される。ヴェロツの特許第3550782号に開示されている装置は一部の用途には適しているかもしれないが、家庭用としては実用に適さない。まず第一に、ヴェロツのシステムに使用されているタンクは微生物やバクテリアの温床になるおそれがある。」(2頁3行ないし17行)
「ヴェロツの特許第3550782号に開示されている装置の貯水タンクは、極めて大きなスペースを必要とするものである。その上、ヴェロツの装置から貯水タンクを取りはずし、下流導水管から直接必要に応じて給水するようにすれば、各導水管は個人住宅に装置を設置できないほど長くする必要はない。」(3頁8行ないし13行)
<2> 〔本発明の目的および概要〕欄
「本発明の主目的は、米国特許第3550782号に開示されている装置に改良を加え、浄化システム特有の欠点を克服した浄水システムを提供することにある。」(4頁2行ないし4行)
「本発明によれば、装置自体をできるかぎり小型にしたまま最大の紫外線照射量が得られる。その結果、事実上バクテリアや微粒子や化学薬品を含まない良質の飲料水やその他流体を提供でき、しかも家庭用として水道の蛇口やその他流体供給源に直接接続してどこにでも容易に設置できる極めて小型のシステムが得られる。」(5頁24行ないし6頁3行)
<3> 〔好ましい実施態様の詳細な説明〕欄
「バクテリア汚染が繁殖するおそれのある、米国特許第3550782号に開示されている装置に使用されている貯蔵または保管タンクを使用する必要がないので、本発明の利用者へ供給される流体は高い純度が保証される。」(11頁18行ないし21行)
「本発明の流体浄化システムは、従来のシステムよりも長時間にわたって途切れることなく、事実上生きた微生物をまったく含まない、すぐ飲める飲料水を連続的に精製できる。」(23頁7行ないし10行)
上記各記載によれば、本願発明は、第1引用例の「水処理装置」に用いられている「貯水タンク」が、微生物やバクテリアの温床になるおそれがあり、また、極めて大きなスペースを必要とするといった欠点があるという認識から、第1引用例のものを改良し、貯水タンクを使用しないようにしたものであることが認められる。
(3) 上記(1)、(2)のとおり、第1引用例のものにおいては、「貯水タンク」が必須の構成要件であるのに対し、本願発明は貯水タンクを使用しないものであるから、貯水タンクの有無は、本願発明と第1引用例のものとの相違点ということになる。
しかるに、審決は、本願発明と第1引用例のものとの対比において、上記相違点を摘示していないから、相違点の看過があったものというべきである。
そして、第1引用例のものにおいて「貯水タンク」を必須のものとしている上記(1)に説示の技術的意義、及び本願発明において貯水タンクを使用しないこととした上記(2)に説示の技術的意義に照らせば、上記相違点の看過が審決の結論に影響を及ぼす事由に当たることは明らかである。
(4) 被告は、本願発明における「精製された流体を使用者に提供するための出口取付具(39)」は、精製された流体がタンク等を介さないで直接使用者に提供するための出口取付具の意味に限定されるものではない旨主張している。
しかしながら、上記(2)に認定、説示のとおり、本願発明は貯水タンクを使用しないものと認められるから、本願の特許請求の範囲第1項に、「精製された流体を使用者に提供するための出口取付具(39)」と記載されているのみで、出口取付具(39)から流出する精製された流体がどのように使用者に提供されるかについて限定されていないからといって、そのことをもって、本願発明において貯水タンクを使用する場合もあると認め得る余地はない。
また、被告は、第1引用例の水処理装置ではタンク18は水の精製には何の作用もしておらず、タンクがないからといって水が精製できないわけではないから、水の精製、すなわち流体浄化システムとして第1引用例の技術事項をみると、タンク18は必須の構成要件であるとはいえず、第1引用例から水を精製する技術を摘出する際に、タンク18を摘出する必要はなく、タンクの有無についての相違点はない旨主張している。
確かに、第1引用例のものは、タンク18において濾過及び殺菌そのものが行われているわけではないが、濾過手段として逆浸透圧ユニットが用いられていることから、タンク18(貯水タンク)は「水処理装置」として必須のものであり、したがって、本願発明と第1引用例のものとを対比するに当たっても、第1引用例のものからタンク18(貯水タンク)を除外することは相当ではないというべきである。
また、第1引用例には、「タンク18の上部に持ってこられたオゾンは水面上の殺菌空気の覆いとなり、更にある程度水中に溶け味をよくする。」(甲第5号証訳文6頁9行ないし11行)、「このオゾンはタンク18の上部に導かれる。従って改良されたオープンシステムが得られ、タンクの上方部は未処理空気には曝されず、オゾンを含む殺菌された空気によって防護され、1部は接触によって水をオゾネートし味をよくする。」(同10頁3行ないし7行)と記載されているところ、第1引用例の「本発明は水の精製システムにかか(わ)り特に殺菌され、オゾン添加(ozonate)された飲用水を容易に作る新規な装置にかかる。」(同2頁4行ないし6行)との記載によれば、第1引用例のものにおいては、水の精製はタンク18内のオゾン処理も含むものであり、その点からいっても、貯水タンクは必須のものと認められる。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
(5) 上記のとおりであって、原告主張の取消事由1は理由がある。
3 取消事由2(相違点<1>についての判断の誤り)について
(1) 飲料水等の流体の浄化手段として、(例えば、活性炭フィルタを有する)濾過手段が、本願の出願前に周知であったことは当事者間に争いがない。
(2) 上記2に認定、説示したとおり、第1引用例のものにおいては、濾過装置として用いられる膜式脱塩ユニット(逆浸透圧ユニット10)から「貯水タンク」に流れる濾過水の動きが非常にゆっくりとした滴流であり、この非常にゆっくりとした水の動きを紫外線照射に有利に利用しようとするものであることから、水処理装置として実用的な水量を確保するために貯水タンクが必須のものであり、したがって、第1引用例のものは、膜式脱塩ユニット(逆浸透圧ユニット10)、紫外線照射手段及び貯水タンクから成るものである。これに対し、本願発明は、第1引用例の「水処理装置」に用いられている「貯水タンク」が、微生物やバクテリアの温床になるおそれがあり、また、極めて大きなスペースを必要とするといった欠点があるという認識から、貯水タンクを使用せず、濾過手段と紫外線照射手段とから成るものである。
そして、本願発明においては、「バクテリア汚染が繁殖するおそれのある、米国特許第3550782号に開示されている装置に使用されている貯蔵または保管タンクを使用する必要がないので、本発明の利用者へ供給される流体は高い純度が保証される。」(甲第8号証11頁18行ないし21行)、「本発明の流体浄化システムは、従来のシステムよりも長時間にわたって途切れることなく、事実上生きた微生物をまったく含まない、すぐ飲める飲料水を連続的に精製できる。」(同23頁7行ないし10行)といった作用効果を奏するものである。
したがって、本願発明における濾過手段と紫外線照射手段を組み合わせたことによる効果は、第1引用例の逆浸透圧ユニット10と紫外線照射手段を組み合わせたことによる効果から当業者が容易に予測することができたものとは認められず、相違点<1>についての審決の判断は誤りである。
(3) 上記のとおりであって、原告主張の取消事由2も理由がある。
4 よって、原告の本訴請求は、その余の取消事由について判断するまでもなく理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成10年9月17日)
(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)
別紙図面1
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別紙図面2
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